滋賀県内でも、経営者の高齢化や後継者不在を背景に、事業の引き継ぎをどう進めるかを検討する中小企業が見られるようになっています。

親族や従業員への承継だけでなく、第三者へ事業を譲るM&A(第三者承継)も、選択肢の一つとして取り上げられる機会が増えています。

とはいえ、「何から始めればいいのか分からない」「相談先が分からない」「まだ自分には早い気がする」と感じている経営者も少なくありません。事業承継やM&Aは専門用語も多く、検討から実行まで一定の時間を要するため、早い段階で全体像を把握しておくことが、納得のいく引き継ぎにつながりやすいと考えられます。

本記事では、滋賀県の中小企業を取り巻く事業承継の現状から、事業承継の3つの方法、M&Aの代表的な手法と進め方、活用できる補助金・税制、県内の相談窓口まで、これから引き継ぎを考え始める県内のオーナー経営者に向けて体系的に整理します。

滋賀県の中小企業を取り巻く事業承継の現状

経営者の高齢化と後継者不在

全国的に、中小企業の経営者の高齢化が進んでいます。中小企業庁の資料などによると、経営者の平均年齢は上昇傾向にあり、2023年時点では過去最高水準とされています。後継者不在率は近年低下傾向が指摘されているものの、依然として高い水準にあると報告されています(※1)。

滋賀県でも、こうした全国的な傾向と無縁ではない状況が見られます。長年地域で事業を続けてきた経営者が引退の時期を迎える一方で、子どもが県外に出ていたり、別の仕事に就いていたりして、親族内での後継者が見つかりにくいケースもあります。

地域に根ざした事業ほど引き継ぎが課題になりやすい

滋賀県には、近江牛などの食品加工、醤油や和菓子といった食品製造、伝統工芸、製造業など、地域に根ざした事業者が数多く存在します。こうした事業は、技術や取引先との関係、地域での信用が経営者個人に紐づいているケースもあり、後継者が見つからない場合には、培ってきた技術や雇用が失われやすい側面があります。

実際に、滋賀県事業承継・引継ぎ支援センターが公開している事例には、精肉・近江牛専門店、醤油醸造、和菓子・洋菓子製造、伝統工芸(琴糸・三味線糸の製造)など、地域の特色ある事業者の承継例が紹介されています(※2)。後継者不在は、特定の業種に限らず、幅広い事業で意識される課題となっています。

いわゆる「2025年問題」

団塊世代の経営者が高齢期を迎えることに伴い、引き継ぎの判断を先送りすると廃業につながりかねないとして、早めの検討を促す指摘もあります。これは一般に「2025年問題」と呼ばれ、後継者問題を抱えたまま時間が経過すると、黒字であっても廃業を選ばざるを得ない事業者が出かねないと懸念されています。

滋賀県の産業特性とM&A

滋賀県は、京阪神圏と中京圏の中間に位置し、高速道路や鉄道など交通の利便性が高い地域です。内陸型の工業団地が整備され、製造業の集積が見られることも特徴とされています。

こうした立地特性から、県外の企業が県内事業者との取引拡大や生産拠点の確保を目的に、M&Aに関心を持つケースも見られます。売り手の立場からは、地域内だけでなく県外の企業も相手先候補となりうるため、第三者承継の選択肢が広がる場合があります。一方で、相手先の選定や条件交渉には専門的な検討が必要となるため、早い段階で支援機関や専門家に相談することが重要とされています。

事業承継の3つの方法

事業の引き継ぎには、大きく分けて「親族内承継」「従業員承継」「第三者承継(M&A)」の3つの方法があります。それぞれに特徴があり、自社の状況や経営者の希望に応じて検討されます。

承継方法概要と主な特徴
親族内承継子どもや親族へ引き継ぐ方法。経営理念や信用を共有しやすい一方、後継者本人の意思や適性、相続・贈与に関する対策が前提となる
従業員承継役員や従業員へ引き継ぐ方法。事業への理解が深く社内外の信頼を得やすい一方、株式取得の資金負担や個人保証の引き継ぎが論点になりやすい
第三者承継(M&A)社外の企業や個人へ事業を譲る方法。後継者が不在でも事業や雇用を継続できる可能性があり、現経営者が対価を得られる場合がある

親族内承継

子どもや親族に事業を引き継ぐ方法です。経営理念や取引先との関係を引き継ぎやすく、従業員や取引先の理解も得られやすい傾向があります。一方で、後継者本人に経営の意思と適性があることが前提となり、自社株式の承継に伴う相続税・贈与税への対策も論点になります。

従業員承継

役員や従業員など、社内の人材に引き継ぐ方法です。事業内容を深く理解した人材が引き継ぐため、取引先や従業員からの信頼を得やすい面があります。ただし、後継者が自社株式を取得するための資金をどう用意するか、現経営者が負っている個人保証をどう引き継ぐかといった点が課題になりやすいとされています。

第三者承継(M&A)

親族や社内に適切な後継者が見つからない場合に、社外の企業や個人へ事業を譲る方法です。後継者が不在でも事業や雇用を継続できる可能性があり、廃業を避ける手段の一つとして位置づけられることがあります。現経営者にとっては、株式や事業の譲渡によって対価を得られる場合があり、引退後の生活資金や次の挑戦の原資につながることもあります。

第三者承継(M&A)の代表的な手法

M&Aにはいくつかの手法があり、中小企業のM&Aでは「株式譲渡」と「事業譲渡」が代表的とされています。どちらを選ぶかによって、引き継がれる範囲や手続き、税務上の取り扱いが変わります。

手法概要と主な特徴
株式譲渡株主が保有する株式を譲渡し、経営権を移転する方法。会社の法人格や契約関係、資産・負債をそのまま引き継ぐため、手続きが比較的シンプルとされる。一方、簿外債務などのリスクも引き継がれるため、買い手による調査が重視されやすい
事業譲渡事業の一部または全部を、対象となる資産・負債・契約を個別に指定して譲渡する方法。引き継ぐ範囲を選びやすい一方、契約の再締結や許認可の取り直しが必要になる場合があり、手続きが煩雑になりやすい

どちらの手法が適しているかは、事業の内容、引き継ぎたい範囲、許認可や契約の状況などによって異なります。手法ごとの違いや、より詳しい仕組み・相場の考え方については、M&A・事業承継を専門に解説するメディアなどで体系的に確認すると、全体像を把握しやすくなります(本記事末尾の参考資料を参照)。

M&Aの一般的な進め方

M&Aは、検討開始から成約まで複数の段階を経るのが一般的です。事業規模や条件によって期間は異なりますが、相手先探しから成約まで半年から1年以上を要することもあるとされています。代表的な流れを整理します。

STEP1 準備・相談自社の現状を整理し、支援機関や専門家へ相談。引き継ぎの方針や希望条件を整理する
STEP2 企業価値の把握財務状況や事業の強みを踏まえ、売却価格の目安や論点を整理する
STEP3 相手先探し条件に合う相手先を探索し、関心を持つ候補先と秘密保持契約のうえで情報を開示する
STEP4 交渉・基本合意条件をすり合わせ、価格やスキームなどの大枠について基本合意を結ぶ
STEP5 デューデリジェンス買い手が財務・法務・税務などの調査(DD)を実施し、リスクや実態を確認する
STEP6 最終契約・成約最終条件を確定して契約を締結し、決済・引き継ぎを行う

各段階で税務・法務・労務などの専門知識が求められるため、自社だけで進めるのではなく、支援機関や専門家と連携しながら進めることが一般的です。

売却価格・企業価値の考え方

「自社はいくらで売れるのか」は、多くの経営者が気になる点です。ただし、企業価値や売却価格は、業種・規模・収益力・財務状況・無形資産(技術・取引先・ブランドなど)の構成によって大きく異なり、一律の相場で語ることは難しいとされています。

中小企業のM&Aでは、純資産に着目する方法や、収益力に着目する方法など、複数の考え方を組み合わせて評価されることが一般的です。実際の価格は、買い手との交渉やデューデリジェンスの結果によっても変動します。具体的な評価方法や相場の考え方については、専門メディアの解説や、FA・仲介会社への相談を通じて把握することが現実的です。

活用できる公的な支援制度

事業承継やM&Aには、国の補助金や税制上の支援制度が用意されています。要件や期限、内容は年度や公募回ごとに変わるため、活用を検討する際は最新情報を必ず確認することが重要です。

事業承継・M&A補助金

従来の「事業承継・引継ぎ補助金」を一部見直す形で、2025年から「事業承継・M&A補助金」として運用されています。事業承継促進枠・専門家活用枠・廃業再チャレンジ枠・PMI推進枠などの枠組みがあり、このうち「専門家活用枠」は、M&Aに関わる専門家(仲介・FA等)を活用する際の費用の一部を支援するもので、買い手支援類型と売り手支援類型に分かれています(※3)。

法人版事業承継税制(特例措置)

非上場株式を後継者へ承継する際の相続税・贈与税の納税を猶予・免除する制度です。特例措置では、納税猶予の対象が全株式に拡大されるなど、要件の緩和が行われています。適用を受けるには、認定経営革新等支援機関の指導・助言を受けたうえで「特例承継計画」を期限内に提出することが前提とされています(※4)。期限や要件は改正される場合があるため、活用を検討する際は中小企業庁の最新情報や専門家への確認が欠かせません。

これらの制度は、要件を満たすかどうかの判断や申請手続きが専門的です。顧問税理士や認定経営革新等支援機関、後述の公的窓口に相談しながら検討するとよいでしょう。

滋賀県で事業承継・M&Aを相談できる窓口

事業承継やM&Aは、税務・法務・労務など複数の専門領域が関わるため、早い段階で専門家や公的機関に相談することが重要とされています。滋賀県内には、以下のような相談先があります。

滋賀県事業承継・引継ぎ支援センター(公的窓口)

経済産業省 近畿経済産業局の委託を受け、大津商工会議所が運営する公的な相談窓口です。親族内承継・従業員承継・第三者承継(M&A)のいずれにも対応しており、相談は無料とされています。後継者を探す「後継者人材バンク」や、譲渡案件の検索、セミナー・個別相談会なども提供されています(※2)。まずは中立的な立場で相談したい場合の入口として活用できます。

民間のM&A仲介会社・FA(ファイナンシャル・アドバイザー)

具体的に売却・買収を進める段階では、民間のM&A仲介会社やFAに相談する方法もあります。仲介は売り手・買い手の間に立って成約を支援する立場、FAは売り手または買い手の一方に立って助言する立場といった違いがあります。それぞれメリット・留意点が異なるため、自社の状況や希望に応じて選ぶことになります。料金体系や支援の進め方、なぜ自社に合うのかを確認しながら選ぶことが大切とされています。

顧問税理士・地域の金融機関・商工会議所

普段から自社の財務状況を把握している顧問税理士や、地域の金融機関、各地の商工会議所も、事業承継の初期相談先となることがあります。身近な相談相手として、検討の方向性を整理する際に役立つ場合があります。

M&A・事業承継を成功させるために意識したいこと

早めに情報収集と準備を始める

後継者の有無の確認、自社の現状把握、引き継ぎ方法の検討には時間がかかることが多いとされています。「まだ先の話」と考えず、早い段階で情報を集め、選択肢を整理しておくことが、納得のいく引き継ぎにつながりやすいと考えられます。

自社の状況を整理しておく

財務状況、取引先や従業員との関係、許認可の有無、自社の強みなどを整理しておくことで、相談時の話がスムーズになりやすくなります。M&Aを検討する場合は、こうした情報が企業価値の評価にも関わってきます。日頃から決算書や契約書を整理しておくことも、いざというときの備えになります。

従業員・取引先への配慮

事業承継やM&Aは、従業員や取引先にも影響します。情報開示のタイミングや伝え方を誤ると、不安や混乱を招くこともあるため、専門家と相談しながら慎重に進めることが望まれます。

信頼できる相談先を選ぶ

事業承継・M&Aは専門性が高い分野です。実績や進め方、料金体系、なぜ自社に合うのかといった点を確認しながら、納得して相談できる相手を選ぶことが大切とされています。

よくある質問(FAQ)

Q. 赤字や債務超過でもM&Aで譲渡できますか?

事業の内容や技術、顧客基盤、立地などに価値が見いだされれば、譲渡の可能性がある場合もあります。財務状況だけで一律に判断されるわけではないため、まずは支援機関や専門家に相談して、自社の状況を整理することが現実的です。

Q. 従業員の雇用は守られますか?

M&Aの目的や買い手の方針によりますが、雇用の維持を条件に交渉が進められるケースもあります。雇用や処遇に関する希望は、交渉の早い段階で相手先と共有し、契約に反映していくことが望まれます。

Q. 相談すると、すぐに話を進められてしまいませんか?

公的窓口や専門家への相談は、情報収集や方向性の整理を目的に利用できます。相談したからといって、必ずしもM&Aを進める必要はありません。まずは選択肢を知るための一歩として活用できます。

Q. 費用はどのくらいかかりますか?

公的窓口の相談は無料とされている一方、民間の仲介・FAを利用する場合は、着手金・中間金・成功報酬など料金体系が会社によって異なります。前述の事業承継・M&A補助金の対象となる場合もあるため、費用の見通しは事前に確認しておくとよいでしょう。

まとめ

滋賀県でも、経営者の高齢化や後継者不在を背景に、事業の引き継ぎを検討する中小企業が見られます。親族内承継・従業員承継に加えて、第三者承継(M&A)も選択肢の一つとなっており、後継者が不在でも事業や雇用を継続できる可能性があります。

事業承継やM&Aは時間を要するため、早めの情報収集と準備が重要とされています。活用できる補助金・税制もあるため、まずは滋賀県事業承継・引継ぎ支援センターなどの公的窓口や、顧問税理士・金融機関といった身近な相談先から、検討の方向性を整理してみてはいかがでしょうか。早めに動き出すことが、培ってきた事業と雇用を次世代へつなぐ第一歩になります。

参考資料